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気候変動への効果的な対応策が、手遅れにならないうちに実施される可能性もますます低くなっている。
このような事態を招いたおもな原因は、エネルギー産業の主要な利害関係者が政治制度を腐敗させたことにあると批判されている。
この利害関係者とは、従来のエネルギー技術やインフラに投資した何十億ドルもの金を必死に守ろうとしている企業のことである。
しかし、アメリカの。
平均的な消費者にも同じくらいの責任がある。
アメリカの消費者は、自分がエネルギーをどれだけ使っているか、そのエネルギーがどこから来るのか、エネルギーにともなう実際のコストはどれくらいかなどの問題について、年々無知・無関心になっているようだ。
いわば重度の「エネルギー音痴」であり、この問題はまもなく広く認識されるだろう。
アメリカ国民の大半は自国のエネルギー経済をほとんど理解していないため、それが崩壊し始めているなどとは夢にも思っていないのである。
物語風の三部構成になっている。
第一部では、エネルギーが人聞社会に欠かせないものになった経緯と理由を説明し、現在の危機的状況の背景を明らかにする。
エネルギーの歴史を簡単に撮り返り、人力から炭化水素経済の拡大にいたるまでの、長くゆっくりとしたエネルギーの発展過程を解説する。
石油はあとどれくらい残っているのかという問題を取りあげ、新しい石油の発見がいかに難しくなっているかを実例にもとづいて説明する。
石油にかわるものとして話題になっている「水素燃料電池」を詳しく検討し、この技術の大きな可能性を論じると同時に、実用化までの道のりはまだ遠いことを解説する。
エネルギーと力の関係を考察し、圏内・国際政治、通商、そして戦争におけるエネルギーの役割について概説する。
世界的な気候変動の問題を取りあげる。
この複雑な現象は、現代エネルギー経済の産物であると同時に、新しいエネルギー経済を形成する最大の原動力になり得るものである。
エネルギー秩序がどう成り立っているかを考える。
エネルギーの消費について論じ、石油や電力などのエネルギーの消費量を増やすことが、世界的な経済力・政治力の獲得にどうつながってきたかを検証する。
石油やガスの生産者の問題を取りあげ、エネルギー産業で抜本的な改革が進んでいることや、それが悲惨な事態をもたらす可能性があることを解3う説する。
新しいエネルギー体制としてどんな選択肢があるかを検討する。
代替的な燃料やエネルギー・システムとして何が考えられるか、それによって世界がどう変わるかを述べ、こうした技術が直面している多くの問題を考察する。
重要でありながら見落とされがちな「省エネ」の概念を取りあげ、エネルギー効率を徹底的に改善することが、維持可能な新しいエネルギー経済を築くうえでいかに重要かを解説する。
第三部では未来のエネルギー体制にともなう可能性とリスクを論じる。
従来のエネルギー体制がすでに現在のエネルギー需要にすら対応できなくなっていることを示しう環境にやさしい。
エネルギーを緊急に開発する必要性」と、「エネルギーの質よりも量の確保を求める基本的なエネルギー需要」とのせめぎあいを解説する。
エネルギー秩序の現状維持傾向がきわめて強いことや、それが経済や国全体のあり方を決定し、多くの場合は腐敗をもたらしてきたことを説明する。
来るべき戦い、すなわちエネルギー経済の現状を維持しようとする人々と、新世代の経済の構築をめざす人々との対決の背景を論じる。
新しいエネルギー経済にどのように移行するかを現在の趨勢から推測し、新しい体制が実際にはどんな形で成立しそうかを解説する。
私は、発展するエネルギー経済の重要な側面を本書ですべて解説しようなどという、大それたことは考えていない。
そのごく一部をとりあげるのがせいぜいだろう。
エネルギーはきわめて広範な問題である。
膨大な要素がからみ合い、複雑でつねに変化しているため、この問題を手っ取り早く解決したり、事実を単純化したりすることは不可能である。
私が望んでいるのは、エネルギー専門家以外の人々に対し、専門家がずっと前から知っている事実について考えるきっかけを提供することである。
その事実とは、エネルギーが何よりも重要な資源であること、現在のエネルギー体制が崩壊しつつあること、そしてわれわれが関与するかどうかにかかわらず、次世代エネルギー経済のあり方が今まさに決まろうとしていることである。
来るべき事態への理解が深まり、よりよい未来が築かれる可能性が高まれば幸いである。
その昔、トマス・ニューコメンは産業革命を頓挫の危機から救うとともに、千不ルギーを追い求める壮大な競争の端緒を聞いた。
それ以来こんにちに至るまで、この競争が文明のあり方を定めてきたのである。
ニューコメンの発明のいきさつについて、今に知られていることはごくわずかだが、ここにその日の出来事を再現してみよう。
時は一七一二年の、おそらくは三月。
所はイギリスのスタッフォードシャー州にある同国最大の炭田、コニグリー炭坑である。
二階建ての簡素なレンガづくりの建物の中で、中年の男が、上方へまっすぐのびた巨大な装置をガチャガチャといじり回している。
レンガ、鉄パイプ、真鎗でつくられたこの装置は、床から九メートルあまりもの高きに及ぴ、その先端は上階の部屋に突き出ている。
この装置を動かしている男こそが、当時四十九歳のトーマス・ニューコメンである。
もと鍛冶職人で、パプテスト派の牧師でもあったが、発明家に転身した。
この奇妙な装置は熱機関という、石炭を動力源とする。
自動。
装置で、完成までに十年を要したニューコメンの労作だ。
すべてが計画どおりにいけば、地下五十メートルほどにある水浸しの坑道から、まもなく水が汲み出されてくるはずである。
41ふだんは秘密主義で用心深いニューコメンなのだが、今日ばかりは機関室へ続くドアをすべて開け放っていた。
彼のまわりには小きな人だかりができている。
炭坑を管轄する役人、数人の投資家、それからニューコメンに金を貸したおおぜいの人々を代表して、弁護士もひとりふたり混じっていたことだろう。
みなぽかんとして熱機関を見上げている。
疑いと熱い期待が入り混じった表情だ。
彼らは科学界の有力者からの批判も聞いていたはずである。
こんな妙な仕掛けが、それもニューコメンのようなただの三流職人がつくった仕掛けがまともに動くわけはないと。
また、手作業でつくられた熱機関の初期の試作品群は、どれも既存技術の限界に挑むものだったが、それらがすべて失敗に終わっていることも彼らは知っていただろう。
そして、ニュコメンの借金が膨れ上がっていることも。
しかし、三月のこの日に、狭苦しく煙たい機関室に集まった人々は、ニューコメンが成功すればどれだけ大きな見返りが得られるかも重々承知していたはずだ。
イギリスはいま燃料危機にある。
急速に工業化が進むなかで、すでに燃料用の木材は使い果たされ、石炭だけが頼りという状況だ。
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